不動産業界、とりわけ賃貸仲介では、一見シンプルに見える一つの取引でも、多くのタッチポイントを経て進んでいきます。
顧客はSUUMOやHOME’Sなどのポータルから問い合わせを行い、その後LINEや電話で営業担当者とやり取りし、物件提案を受け、内見を予約し、申込書類を提出し、審査を経て、最終的に契約へと進みます。
企業側では、顧客情報、コミュニケーション履歴、希望条件、提案済み物件、内見予定、申込書類、審査状況、契約進捗など、さまざまな情報を同時に管理する必要があります。
この課題に対して、PiraGoは次の問いを立てました。
| AIの力を活用してこの一連の体験を再設計すると、不動産向けCRMはどのような形になるのか? |
要件定義書や静的なワイヤーフレームだけで終わらせるのではなく、実際に操作できるモックアップとして形にしました。
今回は、要件整理から画面設計、モックアップ構築までを行い、初期版をわずか2日で完成させました。
日本の不動産市場を調査する中で、不動産向けCRMは、もはや顧客名や電話番号、対応履歴を保存するだけの仕組みではなくなりつつあることが分かりました。
市場の各システムでは、CRMとポータル、物件データ、LINE/メール、内見予約、賃貸申込、その後の業務までをつなぐ動きが進んでいます。言い換えれば、CRMは営業活動と取引プロセス全体を管理するプラットフォームへと近づいています。
この傾向は、特に賃貸仲介の領域で顕著です。
仲介担当者が知りたいのは「この顧客は誰か」だけではありません。
そのため、効果的なCRMには、顧客情報だけでなく、顧客と取引の状態を一つの流れの中で把握できることが求められます。
業界特化型のシステムを設計する際、私たちが特に重視しているのは、UIから考え始めないことです。
ダッシュボードに何枚のカードを置くか、1画面に何項目を表示するかを考える前に、まず実際の業務がどのように流れているのかを理解する必要があります。
賃貸仲介の基本的なカスタマージャーニーは、次のように整理できます。
| 反響 → ヒアリング → 物件提案 → マイページ → 内見 → 申込 → 入居審査 → 契約 → 入居 |

個々の画面ではなく、このフロー全体を見ることで、3つの重要なポイントが見えてきました。
第一に、同じ顧客の情報が複数のチャネルから入ってくる可能性があります。例えば、ある顧客がSUUMOで物件Aに問い合わせた後、HOME’Sで物件Bにも問い合わせるケースです。システムが同一人物だと認識できなければ、顧客データはすぐに分散してしまいます。そのため、初期検討では重複顧客を自動的に検知・統合する考え方も取り入れました。
第二に、「顧客の希望を理解する」ことと「提案すべき物件を選ぶ」ことの間には、まだ多くの手作業が残っています。そして、ここはAIが明確な価値を生み出しやすい領域だと考えています。
第三に、顧客が物件を選んだ後も、内見、申込、審査、契約とプロセスは続きます。
そのため、CRMが答えるべき問いは、単に「どの顧客がいるのか」だけではありません。
| それぞれの顧客が取引のどの段階にいて、次にどのアクションが必要なのか? |
モックアップの最初の画面はダッシュボードです。

ここでは、日々の業務で特に重要な情報を優先して表示します。例えば、新規反響、未対応顧客、返信が必要な顧客、本日の来店、本日の内見、申込中、審査待ち、契約予定などです。
ダッシュボードの目的は、できるだけ多くの数字を表示することではありません。
営業担当者が次の3つをすぐに把握できることが重要です。
各指標をクリックすると、該当条件で絞り込まれた商談一覧へ直接移動できます。
シンプルな仕組みに見えますが、これはCRMの設計思想に直結します。
CRMは、単に「データを置く場所」ではありません。
ユーザーが次に何をすべきかを見える化することが重要です。
今回のモックアップで、特に検証したかったのがAI物件マッチングです。

営業担当者が顧客と会話すると、希望エリア、賃料、間取り、専有面積、駅からの距離、設備、その他の条件などが蓄積されます。
営業担当者が一件ずつ物件を探して比較する代わりに、AIがこれらの条件を使って、各物件との適合度を評価できるようにしています。
現在のモックアップでは、その結果をレーダーチャートで可視化しています。
これにより、営業担当者は総合点だけでなく、次の点もすぐに確認できます。
例えば、立地や設備は高く評価される一方で、予算や物件状態は希望に完全には一致しない、といった違いを視覚的に把握できます。
ここで重要なのは、AIが営業担当者に代わって意思決定をするわけではないという点です。
AIは比較すべき要素を整理し、分かりやすく可視化することで、営業担当者が候補を素早く絞り込み、実際の会話内容や自身の経験を踏まえて最終提案を行えるよう支援します。
今回のモックアップでは、CRMの捉え方そのものも少し変えてみました。
一般的にCRMは社内向けのシステムです。社員が利用し、顧客が直接操作することは多くありません。
しかし不動産では、複数の物件を実際に見て、比較し、最終的に選ぶのは顧客です。
そこで今回のモックアップには、顧客専用のマイページを設けています。
営業担当者が提案する物件を選ぶと、顧客専用のURLを発行できます。

マイページでは、提案された物件一覧の確認、各物件の詳細表示、気になる物件のお気に入り登録、内見済み物件の確認、営業担当者とのやり取りなどができます。

これにより、物件提案は営業担当者がLINEやメールで個別のリンクを何本も送るだけのものではなくなります。
顧客ごとに、自分の候補物件を整理・確認できる専用のスペースを持てるようになります。
さらに発展させると、マイページは価値ある顧客データの蓄積場所にもなります。
どの物件を何度も開いたのか、どの物件をお気に入りにしたのか、どのタイプの物件をよく見ているのか、どの物件を見送ったのか、といった行動を把握できます。
そのデータは、営業担当者が顧客理解を深める材料になります。
同時にAIにとっても、次回の提案精度を高めるための追加データになります。
つまりCRMは、営業担当者が「何をしたか」だけでなく、提案に対して顧客が「どう反応したか」も記録できるようになります。
顧客が気になる物件を見つけた後、次のステップは通常「内見」です。
今回のモックアップでは、顧客がMy Pageから直接「内見リクエスト」を送信できます。

顧客は対象物件を選び、希望日時を指定し、必要に応じてメモを入力して営業担当者へリクエストを送信します。送信後は、リクエストが正常に受け付けられたことを画面上で確認できます。
実運用のシステムでは、このフローをさらに拡張できます。
例えば、カレンダー連携、内見前の自動リマインド、日程変更、キャンセル、担当者変更などです。
重要なのは、予約機能そのものだけではありません。
私たちが表現したかったのは、小さなアクションをつなぎ合わせ、連続したカスタマージャーニーにできるということです。
| AIが物件を提案 → 営業担当者が選定 → 顧客がマイページで確認 → 興味を示す → 内見を予約 |
こうしてCRMは、単なる情報記録システムから、営業活動の各ステップをつなぐ業務プラットフォームへと近づいていきます。
顧客が内見を行い、希望する物件を決めた後も、取引はさらに複数のステップへ進みます。
顧客は申込書類を提出し、その後、保証会社による審査へ進む場合があります。承認されれば、契約準備、契約締結、そして最終的な入居へと進みます。
今回のモックアップでは、これらのステップをCRMから切り離すのではなく、取引の進捗として確認できる形にしています。
商談詳細画面では、内見・申込・審査・契約といった各段階のステータスを確認でき、未内見、予約済み、申込、審査待ち、契約準備、入居完了までの流れを把握できる設計です。

これにより、営業担当者は一つの商談を開くだけで、次のことを素早く理解できます。
これは、汎用CRMと、特定業界の実務を踏まえて設計したシステムとの違いの一つでもあります。
顧客を管理するだけではなく、「取引の文脈の中で顧客を管理する」ことを重視しています。
本プロジェクトでは、Cursor IDE上でGPT-5.6 Solを利用し、アイデアの整理から実際に動くデモの作成までAIを活用しました。
ただし、1つのプロンプトからAIにシステム全体を生成させる方法ではありません。工程をいくつかに分け、各ステップでチームがレビューしてから次へ進む進め方を採用しました。
初期の業務説明をもとに、AIが要件を整理し、メニュー構成、画面一覧、主要機能、画面間の遷移を提案しました。また、多画面のWebデモを短期間で作り、多言語対応も行うという目的に合う技術スタックも候補として提示しました。
検討の結果、Nuxt 4、Vue 3、TypeScript、Tailwind CSS、Pinia、Nuxt i18nを採用し、短期間で効率よく実装できる構成としました。
コーディング前に、AIを使って配色、テーマ、レイアウトの複数案を作成しました。
内容をレビューしたうえで一つの方向性を選び、それを全画面の共通リファレンスとして利用しました。最初にスタイルを決めることで、各画面の一貫性を保ちやすくなります。
各画面について、機能仕様をもとにAIが設計案を作成しました。表示すべきデータ、必要な操作、遷移、データがない場合や検索結果がない場合の扱い、既存コードから再利用できる部分などを整理します。
その設計案を業務要件と選定したUIスタイルに照らして確認し、機能不足や不自然な点があれば先に設計案を修正します。設計案のレビューが完了してから実装へ進みました。
AIは、合意した設計案をページ、コンポーネント、型定義、処理ロジックへ落とし込む作業を支援しました。
その後、開発者がデモを実行して実際のフローを確認します。フィードバックが出た場合は、AIを使って関連コードを特定し、UIやロジックの修正、共通部分のリファクタリング、TypeScript・lint・buildの確認を行いました。
最終的なレビューと、業務要件として正しいかどうかの判断は、開発チームが行います。
私たちが強調したいのは、単に「AIによってコーディングが速くなった」ということだけではありません。
より大きな価値は、企業がアイデアを早い段階で具体的に確認できることです。メニューや画面一覧、デザイン案、各画面の設計案、そして実際に操作できるデモまで、各段階にレビュー可能な成果物があることで、早期にフィードバックを得て、完成版への大きな投資を行う前に修正できます。
不動産会社の業務に、唯一の正解となる運用方法はありません。
同じ仲介業であっても、問い合わせの受け方、リードの振り分け、利用中のツール、承認フロー、顧客管理方法は企業ごとに異なります。
そのためPiraGoは、企業側の業務を固定パッケージに無理に合わせてもらうことを前提としていません。
モックアップは、双方がシステムの姿を具体的にイメージするための「最初のソリューションフレーム」として位置づけています。
そのうえで、本開発では次の観点からシステムを調整できます。
今回のモックアップは、実際に操作できるデモをご用意しています。
反響がどのように管理されるのか、営業担当者が顧客情報をどう確認するのか、AIが候補物件の提案をどう支援するのか、顧客がマイページをどう使うのか、そして内見・申込・契約へどのようにつながっていくのかを実際にお試しいただけます。
▶ CRM Mockupを体験する
営業担当者向け:https://zenbroker-dx-sales-demo.vercel.app/
顧客向け:https://zenbroker-dx-sales-demo.vercel.app/customer/opp-001
※ ログイン方法
ログイン画面下部の「デモ」ボタンをクリックするだけで、そのままログインできます。

PiraGoは、日本企業向けにシステム開発とAI活用を支援する開発パートナーです。
現在は特に、不動産と介護の2つの領域に注力しています。仕様書どおりにソフトウェアを作るだけではなく、顧客と一緒に業務を分析し、システム・データ・AIによって改善できる領域を見つけることを重視しています。
CRMは、その一例にすぎません。
課題に応じて、業務システム、ウェブ/モバイルシステム、データ連携、AIエージェント、RAG、業務自動化、顧客向けサービスなど、幅広い形で支援できます。
例えば、次のような段階でもご相談いただけます。
新しいアイデアを形にしたい、あるいは既存のレガシーシステムをアップグレードしたいとお考えですか?
本開発に入る前に、まずモックアップから始めることで、解決策を早く具体化し、フローを検証し、要件の認識を合わせることができます。
PiraGoでは、企業の実際の業務や課題に基づいたモックアップ作成を無料で支援しています。
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